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水虫による喘息


喘息の外的要因

アメリカの喘息管理ガイドライン(National Asthma Education and Prevention Program Expert Panel Report では、喘息管理の4要素の1つに喘息悪化に関与する環境因子と合併症のコントロールを挙げています。環境因子にはハウスダスト、ペット、ゴキブリ、真菌、ウイルス、花粉、大気汚染物質(SO2、NO2など)、タバコ煙、職業粉塵などがあります。アレルゲンを特定するには詳細な問診が重要であり、喫煙習慣、健康食品を含めた常用薬品、住環境、職場環境、ペットの飼育歴などを確認します。皮膚テストや血中アレルゲン特異的IgE抗体検査もアレルゲンの特定に役立ちます。アレルゲンの特定はアレルゲンへの回避行動に繋がり、喘息悪化のリスクを軽減できます。また、軽症から中等症の喘息患者ではアレルゲン免疫療法(減感作療法)という治療選択の可能性を増やすことができます。


白癬とTrichophyton

白癬(皮膚糸状菌症)は本邦における代表的な表在性皮膚真菌症であり、病変部位により頭部白癬、体部白癬、股部白癬、足白癬、爪白癬に大別されます。Foot check 2007を参考にすると、足白癬の有病率は21.6%、爪白癬は10.0%と推計されています。本邦における白癬の原因糸状菌の大部分はTrichophyton rubrumやTrichophyton mentagrophytes であり、この 2 菌種でおよそ90%を占めると言われています。白癬の治療法は病変部位により異なり、足白癬では抗真菌薬の外用が中心です。爪白癬は近年保険適用のある外用薬が上市されましたが、経口抗真菌薬に較べて完全治癒率が劣るため第一選択は従来通り経口抗真菌薬となっています。


Trichophytonに対する即時型反応

Trichophytonとアレルギー疾患との関連は以前から指摘されており、Trichophyton属の各菌種からアレルゲンコンポーネントが同定されると、その免疫機序が明らかになってきました。Trichophytonに対する免疫応答には即時型反応、遅延型反応、2相反応があると報告されており、喘息の発症、悪化には即時型反応が関与すると考えられています。Trichophyton抗原の皮膚テストにおいてまずTrichophyton特異的IgE、IgG4を介した即時型反応が起こり、Trichophyton慢性感染を経て上気道(副鼻腔炎、鼻茸)および下気道(喘息)に慢性炎症が生じるとされています。


Trichophytonと喘息

Trichophytonはアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、慢性蕁麻疹といったアレルギー疾患との関連が以前から報告されています。喘息との関連を示した小規模な研究結果の報告も複数あります。Wardらは、11人の白癬を合併している高齢発症の中等症~重症の喘息患者に対して、フルコナゾール100㎎/日を10ヶ月間(一部は後半の5カ月間)投与した結果、Trichophyton抗原に対する気道過敏性は著明に低下し、経口ステロイドの必要量は減少、有意差はつかなかったものの7人でピークフロー値の改善を認めたと報告しています。このことは、白癬合併の喘息において、白癬が喘息悪化因子である場合は、白癬を治療することで喘息も同時に改善させられる可能性を示しています。


吸入抗原にもなり得るTrichophyton

白癬に罹患していなくても白癬患者との接触が原因で気管支喘息が増悪したと考えられる事例の報告が多数あります。Trichophytonの感作経路としては経皮感作が最有力ですが、Matsuokaらは白癬の有無に関わらず、喘息が重症になるにつれTrichophyton特異的IgE抗体陽性率が高くなると報告しており、経皮感作以外では経気道感作の可能性が考えられています。本邦からは2011年に、白癬に罹患していない看護師が白癬患者のおむつ交換やお風呂介助をした夜に喘息症状が悪化することが多く、マスク着用などのTrichophyton回避行動や転職により喘息症状が改善したという症例報告があります。Wardらは、白癬合併の重症喘息患者で、Trichophyton属に対する皮膚反応陽性の10人に対し気管支誘発試験を行ったところ、10人ともにTrichophyton tonsuransからの抽出物に対して即時型の気管支反応を示し、Trichophyton抗原の吸入がIgE抗体産生亢進、気道感作、症候性喘息の発症に関与する可能性を報告しています7)。白癬患者と接触機会のある職業(看護師や柔道整復師など)ではTrichophytonが気管支喘息悪化の一因となっている可能性を念頭においた病歴聴取が必要です。


診断

身体診察で皮膚病変の確認を行い、白癬が疑わしければ皮膚検体の鏡検を行い糸状菌の有無を確認します。問診では白癬患者との接触機会があるかどうかを確認することが重要です。その上でTrichophyton感作が疑わしければ特異的IgE抗体を提出し、陽性であればTrichophytonが喘息増悪の因子である可能性があります。陽性頻度の高いアレルゲンを網羅したMAST36アレルゲン、MAST48mixテストの項目にはTrichophyton特異的IgE抗体が入っておらず、前記の2つの検査だけではアレルゲンを全て網羅できないことに留意する必要があります。


治療・予防・予後

自身が白癬に罹患している場合は、白癬に対して抗真菌薬による治療を行うことにより、白癬病変の改善に伴い喘息症状の改善が得られることがあります。自身が白癬に罹患していない場合は、マスク着用などのTrichophyton回避指導や転職により喘息症状が改善することがあります。通常の喘息に対する薬物治療と平衡して白癬病変のコントロールとTrichophytonの回避行動が喘息症状を改善させる可能性があります。


重要ポイントのまとめ

●喘息管理において外的要因の特定はアレルゲン回避行動に繋がるため、患者の職業や生活環境の聴取といった患者背景の詳細な問診が重要である。

●MAST36やMAST48mixといったアレルゲン検査にはTrichophytonなど含まれていない項目があることに留意する。

●難治性喘息患者では皮膚の所見にも注意し、白癬を見逃さないようにする。

●看護師や柔道整復師などは白癬患者に触れる機会が多く、Trichophytonが喘息増悪の原因となっている可能性を念頭に置く必要がある。

●Trichophytonが原因で喘息症状が増悪している場合、白癬に対する治療が喘息症状を改善させる可能性がある。



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