JAMAの古いReviewを元に新しいデータを継ぎ足しで使っていましたが、この度新たに勉強しなおしました。
最近の論文はCPC 4-5(昏睡、死亡)を予測するというよりも、神経学的予後不良(CPC 3–5あるいはmRS 4–6)の予測、つまり、日常生活に介助を要する(mRSでは歩行に介助を要する)の予測に注目が集まっていますので、今回もその予測の話とします。
基本としたのが、以下の論文。
Prediction of poor neurological outcome in comatose survivors of cardiac arrest: a systematic review
Intensive Care Med . 2020 Oct;46(10):1803-1851.
元データが載っているので、私は好きですが、おそらく多くの人には分かりにくいと思います。
例えば臨床所見だけでも以下のようにTableが多数。
そこで、複数の論文で評価されている項目(できれば3つ以上だが、他に類似する項目がない場合は2つ以上の論文で評価されているものを含む)を抜き出し、感度・特異度・尤度比をMetaDiscで計算しなおして表にまとめると以下のようになります。
臨床所見による神経学的予後不良(CPC 3–5あるいはmRS 4–6)の予測
24時間以内に対光反射や角膜反射が出現すれば比較的予後は良好であると期待できる。
72時間後に対光反射も角膜反射も見られない場合は神経学的な予後は不良であるが、刺激に対する反応性も重要である。
臨床所見のみによる早期の予後予測には限界があり、ミオクローヌス重積や異常肢位のみで予後不良と断定してはならない。
ミオクローヌス重積とLance-Adams発作 は両者とも刺激で容易に誘発するミオクローヌスを呈する疾患ですが、前者の予後は不良で後者は良好であり、鑑別が重要です。タイミングが早期であれば予後不良なミオクローヌス重積の可能性が高いとはいえ特に鎮静下では臨床所見のみで早期判断は難しいこともあります。
Clin Neurophysiol Pract . 2017 May 5;2:98-102. PMID: 30214979
神経特異エノラーゼ(NSE)による神経学的予後不良(CPC 3–5あるいはmRS 4–6)の予測
†Intensive Care Med . 2020 Oct;46(10):1803-1851. PMID: 32915254 メタ解析
‡Intensive Care Med . 2022 Apr;48(4):389-413. PMID: 35244745 メタ解析
元データを載せるのはもう大変なので載せません。NSEの結果が判明する頃には臨床的に神経学的予後判定が出来ていることが多いので、必須の検査とは思いませんが、48-72時間後のNSEの有用性は明らかです(0-24時間後(AUC 0.64)よりも24-48時間後(AUC 0.82)もしくは48-72時間後(AUC 0.83)に測定するほうが神経学的予後をより反映します(Neurology . 2022 Jan 4;98(1):e62-e72. PMID: 34663643 ))。また予後良好の予測にNSE低値(正常)も役立ちます。今回は予後不良予測という指標に合わせてデータを修正して一つの表にまとめました。LR-が低い指標が予後良好因子です(つまりNSE≦17-18.1 ng/mL)。
鎮静剤により神経学的評価が困難な状況では便利です。48-72時間後のNSE<17なら予後良好な可能性が高くなるが、33以上では予後不良です。ただしNSEだけをもって予後不良と言うならばより高値じゃないと言い切れませんし、溶血による偽性高値にも注意です。
脳波(120時間以内に施行)による神経学的予後不良(CPC 3–5あるいはmRS 4–6)の予測
Intensive Care Med . 2020 Oct;46(10):1803-1851. PMID: 32915254 メタ解析
脳波も膨大なデータがあり、元データをみると理解するのが大変でした。24個も表があるので理解を容易にするためには統合が必要です。評価しているタイミングでは大きく結果は変わらないように思えましたので(タイミングと尤度比を表にしても明らかな傾向は認められない)、まずはタイミングをすべて(心拍再開から120時間以内)まとめてしまいました。また同じ論文内で複数回評価された患者いることから単純にデータを合わせてメタ解析することは不可能と判断しました。そこで、上記の表では個人的に95%信頼区間を示すのに用いている()ではなく、報告されている最小値と最大値を表す範囲を[]を用いて表記しました。項目にACNSの基準がある場合、ACNSの基準に合致しないあいまいな項目は削除しました。その結果が上記の表で、結論としては背景脳波が平坦な場合(±周期性放電)や、Burst suppression(±同期性放電)は予後不良を強く示唆します。
Highly malignant EEGとも呼ばれる以下の所見とぴったり一致していて気持ちの良いデータです(とはいっても下記の論文などを元にこのメタ解析がされているのですが・・)。
(A) Suppressed background (amplitude <10 μV, 100% of the recording) without discharges. (B) Suppressed background with superimposed continuous periodic discharges. (C) Burst-suppression (periods of suppression with amplitude <10 μV constituting >50% of the recording) without discharges. (D) Burst-suppression with superimposed discharges.
Neurology . 2016 Apr 19;86(16):1482-90.PMID: 26865516
外界刺激に対する脳波上の反応も診断に有用ですが、刺激方法や評価方法がバラバラという問題点があります。
体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential:SSEP)による神経学的予後不良(CPC 3–5あるいはmRS 4–6)の予測
Intensive Care Med . 2020 Oct;46(10):1803-1851. PMID: 32915254 メタ解析
体性感覚誘発電位(SSEP)は鎮静薬の影響を受けにくく、両側でN20が消失している場合の神経学的予後は不良であることが分かります。しかも24時間未満のタイミングでも診断特性は良好です。残念ながらSSEPは当院では検査していませんが、これみるとやりたいな・・。なお、筋電図混入を防ぐため検査時に筋弛緩薬を使用のが一般的です。
頭部CT・頭部MRIによる神経学的予後不良の予測
文献ではCT値で測定する客観的な方法が取られていますが、その測定部位やCT値の判断基準はバラバラです。
MRIの元データは示しませんが、やはり測定部位やADC値のカットオフはバラバラです。そこで、もう少しまとめて解析してくれている別のメタ解析を参照しました。
Neurocrit Care . 2020 Feb;32(1):206-216. PMID: 31549351 メタ解析
CTの白質/灰白質の吸収値を報告した論文をまとめてくれていますが、測定する部位やTTMの有無、意外な事にタイミングでも診断特性にさほど大きな差異はなさそうです。MRIではTTMをしていない場合にはDWI異常信号の特異性が劣るようではありますが、TTMをしないことがもはや殆どないでしょうから、思い切ってここは簡潔にまとめます。
CTやMRIによる神経学的予後不良の予測
Neurocrit Care . 2020 Feb;32(1):206-216. PMID: 31549351 メタ解析
CTによる白質/灰白質の境界不明瞭化{(尾状核、被殻のCT値)/(脳梁、内包後脚のCT値)<1.1-1.21が目安}があれば予後不良と判断できます。この変化は発症後2時間以内に出現しうる。
超音波検査やCT検査における視神経鞘径による神経学的予後不良(CPC 3–5)の予測
J Pers Med . 2022 Mar 20;12(3):500. PMID: 35330499
これはまた別のメタ解析のデータからです。論文数はCTとエコーと合わせて9つあります。一番下にJapanの報告がありますが、これはエコーによる視神経鞘径の評価が蘇生後脳症の予後予測に有用であるという世界で初めての報告を当院からしたもので、思い入れのある所見ですので最後に紹介します。
脳圧が亢進すると視神経周囲に髄液が溜まることを反映して視神経鞘径(Optic Nerve Sheath Diameter:ONSD)は拡大します。ONSDは0-72時間後に網膜から3㎜深部の部位で測定します。ONSD拡大があれば予後不良と考えます。ONSD評価の優れた点はベッドサイドで最も非侵襲的・迅速・簡便に評価できる検査であることです。エコー機器に初期設定(mechanical indexを0.2に下げるなど)は必要ですが、どこの医療機関でも施行可能な検査ですので、是非お試しいただければと思います。
J Neuroimaging . 2015 Nov-Dec;25(6):927-30. PMID: 25890995
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